何をトチ狂ったのか年末のクソ忙しい時期に高校の卒業アルバムを探している。キャスター付きのカラーボックスの合間を縫い、恐らくここにあるだろうと見当をつけた引き出しのほんの僅かな隙間から文字通り引っ張り出してきてしまった。 もちろん何の目的もな…

女は度胸なんて言われることもあるけど、結局みんな愛嬌のある女が好きだろ。優しくする相手は選ばなくて、いつもニコニコしてて、そういうのが可愛らしくて許しちゃったりするんだろ。深刻そうな女は綺麗じゃないもんな。言われるたびに当てつけか何かです…

遺体を長期保全する方法として、エンバーミングという技術があるらしい。消毒や殺菌を行い臓器を取り除き、血液を排出するとともに防腐剤を注入する。命が終わって徐々に腐敗していく肉体を生前のような姿にとどめておくための処置だ。 日本は国土の狭さから…

紙とペンが好きだった。ペン先が紙の上を滑ったり引っかかったりしながら、文字が紡がれていく。便利じゃなくても別に良かった。書いたときの感情が文字に残る、そういうところが好きだったはずだ。ノートとペンを持ち歩くのをやめたのはいつだろうか。残し…

帰宅してテレビをつけると、なぜだか知らないけどいつもどのチャンネルまわしてもスポーツニュースしかやってない。だから夕飯を食べながらぼんやりと野球の結果を見ながら夜を過ごすのが日課になっていた。とはいえ熱心に見てるわけではないから、どこが勝…

始発前の空は怖いくらいに黒い。 夏だったら明け方と呼ぶようなこの時間、今の季節は真夜中より純度の高い夜。 車でさえ少なくて、駅のホームで電車を待つ人はみんな口を真一文字に結んでいる。 あと何時間後かには街は浮かれきった面をさらすのだろうが、こ…

いつか行ってみたいとただ思うだけだった場所には、思いの外すんなり行ける。 死ぬまでにやってみたいとぼんやり夢想していたことは、ひょんなことから実現したりする。 そういう経験が立て続けに起こった。 非日常はやがて日常に成り代わる。 境界が曖昧に…

何かの淵に立たされたとき「あぁ、あの時本当に死んでしまえばよかった」と思う。 胸に包丁をあてたあの時に思い切り突き刺してしまえば、あるいはロープを首にかけたあの時にそのまま締めてしまえば良かったのに、と思うのだ。 最初のそれは中学3年の夏だ…

"友達"は難しい。 抽象的で関わり方の指針が不明瞭だ。 大抵の場合はいつか終わりがくる。ただそれが今ではないだけ。でも、そのことを口に出すと非難される。 その点"仲間"はいい。 目的が明確で、道を違えたらそこでさようなら。 なんとなくではあっても全…

ハグをするとストレスの3分の1が解消されるなんていうのはよく聞く話だ。 オキシトシンが分泌されることにより精神安定効果のあるセロトニンの分泌が促されるらしい。 自分の生活圏内にはスキンシップが存在しない。 友人との別れ際、握手を求められて一瞬パ…

随分と冷え込むようになった。 着込んでいても、自転車に乗れば吹き付ける風は冷たい。 色付いた木の葉がひらひらと落ちていくように、自分の内側から何かが削ぎ落とされていくような感覚に陥る。 この時期はいつもこうだ。 乾燥していくのは空気だけではな…

じっとりと汗ばむ肌を、少し冷えた風が撫でる。 中途半端。 曖昧で混沌としていて名前をつけがたいこの季節は、夏にも秋にもない優しさがあるように思う。 何でもかんでも白黒はっきりさせようとしてくる人は苦手だ。 物事に名前をつけてラベリングをして分…