紙とペンが好きだった。
ペン先が紙の上を滑ったり引っかかったりしながら、文字が紡がれていく。
便利じゃなくても別に良かった。
書いたときの感情が文字に残る、そういうところが好きだったはずだ。
ノートとペンを持ち歩くのをやめたのはいつだろうか。
残したい思い出も感情も、持ち合わせていないことに気がついたころかもしれない。
切り離したい内側は依然としてそこにあり、自分と繋がっていることを突き付けられるような気がして、吐き気がするようになった。
紙に滲んだ吐瀉物はトイレには流せない。
どうしようもなくなって火をつけた。
そうして私は書くことをやめた。

それが性懲りもなく、またこうして書いている。
無個性な活字を借りて喉を焼くような胃液を飲み下している。
活字に眩暈をおぼえたら、そのときは本当に潮時だと思う。
それまでにできるだけ遠くに、この心を捨ててこれたらいい。